GISで地図がズレる理由
複数の地図を重ね合わせて、知りたい条件を満たす場所を見つけ出す。
GISの醍醐味である「オーバーレイ」を楽しめるようになってきた頃、多くのGIS初心者がある奇妙な現象に直面します。
「Aの地図とBの地図を重ねたのに、場所がズレている……」
スマホの地図アプリを見ながら歩いているとき、自分のいる青い点が道一本分ズレている経験はありませんか?
あるいは、古い紙の地図とGoogleマップを見比べたとき、建物の形は同じなのに場所が微妙に合わないことはないでしょうか。
地面も建物も動いていないのに、なぜ地図の上では場所がズレてしまうのでしょうか。
この原因こそが、GISの最初にして最大の壁である
「座標系(ざひょうけい)」です。
この記事では、
- なぜGISで位置ズレが起きるのか
- 実務で失敗しないための座標系の考え方
について、図解イメージを交えながら分かりやすく解説していきます。
1. 座標系とは何か

ここに一軒の家があるとします。
人間同士なら、
- 「あの山の右側」
- 「コンビニの隣」
と言えば通じます。
しかしコンピュータ(GIS)には通じません。
GISは、すべての場所を 「X」と「Y」の数字(座標)」 で管理する必要があります。
ここで、次のイメージを想像してみてください。

地球全体に巨大な「見えない方眼紙(マス目)」を敷き詰める。
この方眼紙の縦線と横線を使えば、
- 横にいくつ
- 縦にいくつ
進んだ場所という形で、数字だけで位置を表すことができます。
この「地球に敷いた方眼紙のルール」のことを
座標系(Coordinate Reference System:CRS)または座標参照系と呼びます。
地図上のデータには必ず、この目に見えない方眼紙(ルール)が存在しています。
GISは、このルールを基準にして図形を描いているのです。
2. なぜ「度」と「メートル」が混在するのか

GISを触っていると、
- 緯度・経度
- X / Y 座標
といった、異なる種類の座標が存在することに気づきます。
特に混乱しやすいのが、
- 角度(度)
- 距離(メートル)
という2つの表現です。
「場所を表すなら、全部メートルに統一すればいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし実は、それぞれ役割が違います。
緯度・経度(角度)

緯度・経度は
- 北に何度
- 東に何度
という形で位置を表します。
これは地球全体の中での位置を表すのに適しています。
GPSなどで使われる世界測地系(WGS84)が代表例です。
投影座標(メートル)

一方、角度のままでは
- 距離
- 面積
- 範囲
を計算するのが難しくなります。
そこで、丸い地球を一度平面に投影して、メートルで測れるようにするという方法が使われます。
これが投影座標系です。
日本では代表的なものとして平面直角座標系があります。
つまり
- 地球全体の位置 → 度
- 距離や分析 → メートル
という役割分担になっているのです。
3. 日本の座標系
さらに少しややこしいことに、
- 世界測地系
- 日本測地系
という複数の基準が存在します。
なぜ世界共通のルールだけにしないのでしょうか。
理由はシンプルです。
世界全体に最適な地図と、日本だけに最適な地図は違うからです。
日本測地系(Tokyo Datum)
過去、日本では日本列島に最も合う測量基準として日本測地系が使われていました。
この基準で、多くの地図資産が作られました。
世界測地系(WGS84)
現在では、GPSなどと整合を取るため世界測地系が主流になっています。
日本でも
- JGD2000
- JGD2011
などの形で世界測地系へ移行しています。

平面直角座標系
さらに日本では、距離を正確に測るため日本を19のブロックに分割した平面直角座標系が使われています。
これは、
- 都市計画
- 防災
- 測量
など、数メートルのズレが問題になる分野で重要な座標系です。

4. 座標系を間違えると何が起きるのか
座標系を間違えると、GISではさまざまな問題が起きます。
例えば、
- Aさんは「東京基準」の座標系
- Bさんは「世界基準」の座標系
で地図を作ったとします。
この2つをそのまま重ねると、マス目が一致しないため数百メートルのズレが発生します。
もし、この状態で分析を行うとどうなるでしょう。
ハザードマップ
安全な場所を探しているつもりが、実際には危険な場所を選んでしまう可能性があります。
施設分析
「駅から500m以内」の検索で、
- 本当は近い施設が除外される
- 遠い施設が含まれる
といった誤った結果が出てしまいます。

GISは魔法ではありません。
設定されたルールに従って計算しているだけです。
だからこそ、前提となる座標系が揃っていないと、分析結果も正しくならないのです。

5. GISの座標系はなぜ難しいのか
GISで多くの人が座標系でつまずく理由は明確です。
- 地球は球体
- 地図は平面
- 国ごとに測量基準が違う
- 目的によって最適な座標系が変わる
つまり座標系とは、「地球をどう表現するか」という問題なのです。
GISの便利な機能
最近のGISソフトにはオンザフライ投影(On-the-fly projection)という機能があります。
これは、異なる座標系のデータでも自動的に同じ基準に変換して表示してくれる機能です。
私たちは、
地図にはそれぞれ
位置を決めるためのルールがある
ということを理解しておけば十分です。
まとめ

今回のポイントを整理します。
- 座標系 = 位置を決めるルール
- 地球の位置 → 度
- 距離・分析 → メートル
- GISのズレの多くは 座標系の違い
GISで分析を始める前に
「この地図とあの地図、同じ座標系かな?」
と一度立ち止まる。
この視点が、GISを
「地図を見るツール」から
「世界を読み解く思考ツール」
へ変えてくれます。
座標系を理解すると、GISの仕組みが一気に見えてきます。
ルールを理解し、あなたの手で新しい「問い」を生む地図を作っていきましょう。
関連動画
この記事の内容は、YouTube動画でも解説しています。
本編
座標系とは?GISで位置がズレる理由
補足1
なぜ「度」と「メートル」が混在するのか?座標系の基本
補足2
日本の座標系とは?なぜ日本測地系があるのか
補足3
座標系を間違えると何が起きるのか?GISで最も多いミス
次回予告
次回の記事では、
「GIS分析とは何をしているのか?」
というテーマを通して、
- GIS分析の基本的な考え方
- 条件で場所を絞る仕組み
- なぜGISが意思決定に使われるのか
を分かりやすく解説します。
GISは、地図を見るツールではなく
「問いに対する答えを探すツール」です。
次回、GISの核心に少し踏み込んでみましょう。
